上場準備で変わるのは、経理だけではない|IPOの基本【準備編】
講師:齋藤和也約5分で読めます

開催の背景
月次決算を早く締めたいのに、営業から請求書が上がってこない。給与計算も、まだ終わっていない。経理で急いでも数字がそろわず、困ることはありませんか。
IPOは、会社の株式を証券取引所で売買できるようにすることです。上場準備と聞くと、特別な書類を作る仕事を想像するかもしれません。でも、その中には、毎月の数字を早く正しくまとめるための仕事も詰まっています。
上場を目指すことになってから、社内の仕事を一度に変えるのは大変です。今の月次決算を見直したいときや、次の職場で経理の仕事を広げたいときにも、上場準備で何が求められるかを知っておくと、自分に足りない経験が見えてきます。
8月22日の「IPOの基本【準備編】」は、全3回シリーズの第1回。公認会計士・税理士の齋藤和也が、上場支援の現場で出会う課題を交えながら、経理の仕事がどう変わるかを扱いました。

齋藤 和也講師公認会計士・税理士/株式会社Cuel 共同創業者。大学在学中に公認会計士試験に合格し、監査法人で上場企業の監査を経験。その後ベンチャーの立ち上げやIPO準備に携わり、いまは複数社のバックオフィス支援と監査役を務める。数字を合わせるところで終わらせず、その数字が経営のどの判断につながるかまでを、実際の資料の形で扱う。
この回でやったこと
上場準備の中身を知ると、たとえばこんなことが分かります。
- 上場が遠のく原因は、経理以外にもあります。社長と会社のお金の関係や、労働環境が問題になることもあります
- 棚卸しで確かめるのは、商品だけではありません。切手やレターパック、社員が使っている備品も対象です
- 税理士に申告書を作ってもらっていても、会社の中で内容を説明できる必要があります
どれも、経理が決算書を完成させれば済む話ではありません。普段は別々に見えていた仕事が、上場準備ではつながってきます。
授業では、まず経営者・社員・経理それぞれに起こる変化を見ました。そのあと、上場を目指す年からさかのぼって準備の流れをたどり、費用や経理が関わる書類まで扱っています。

扱ったテーマ
- 上場すると変わる、決算書を見せる相手
- 数字を公表する開示、外部の専門家が確かめる会計監査
- ミスや不正を防ぐ社内の仕組みである内部統制
- 上場までの準備の流れと、監査法人・証券会社の関わり
- 月次決算の早期化と、売上や費用を計上する時期
- 商品・切手・備品などの実物を確かめる棚卸し
- 上場にかかる費用と、経理の増員やシステムの整備
- 会社の状況を説明する書類と、経理のキャリア
つまずきやすいポイント
経理の数字が整っても、上場準備は終わらない
上場準備では、会社の運営そのものが問われます。経理の処理に問題がなくても、社長による会社の私物化や、労働環境が原因で審査が進まないことがあります。
証券会社の審査で最近増えている質問として挙がったのが、勤怠の記録とパソコンの使用記録が食い違う例です。残業していない記録なのに、パソコンは使われている。その理由や、残業代の未払いを防ぐ対策まで問われます。決算書だけを眺めていても、こうした事情は分かりません。
会社のルールについても、文書を作れば終わりではありません。実際の仕事が、そのルールに沿って進んでいるかが問題になります。授業でも、社長個人と会社の取引の整理や、営業・購買からの情報の流れが、経理の外の課題として挙がりました。

月次決算の速さは、経理の作業時間だけでは決まらない
経理に届く前の情報がそろわなければ、月次決算は進みません。入力する人の作業を速くするだけでは、解消しない遅れがあります。
授業では、営業から請求書が上がってこないことや、給与計算が終わらないことが例に出ました。購買の担当者が何を買い、何が届いているのか。その情報も、数字をまとめるために必要です。毎月締めるのが遅いとき、経理の作業量だけを見ても、理由を見落とすことがあります。

また、年に一度の決算では、数字を公表する日と、経理が数字を固める日は同じではありません。公表の期限から逆算すると、経理が数字を固める日はかなり前になります。
上場準備で求められる早さには、こうした仕事のつながりが関係しています。他部署から情報が届くまでの時間も、決算にかかる時間の一部です。
棚卸しは、商品以外の紛失にも気づく機会になる
棚卸しは、在庫のある会社だけの仕事ではありません。帳簿に載っているものが本当にあるかを確かめると、身近な備品にも話が広がります。
当日、商品と並んで挙がったのは、レターパックや切手、現金、パソコンなどの備品です。減価償却、つまり購入した費用を何年かに分けて計上する処理が終わっていても、実物の管理は残ります。
備品がなくなっていたら、紛失したのか、誰かが間違えて持ち帰ったのか。不正に持ち出された可能性もあります。実物を確かめる作業には、数字を正しくすることに加えて、そうした問題に気づく意味があります。
帳簿の処理が済んでいるものも、社内では使い続けています。上場する予定がなくても、会社のものがどこにあるか分からない状態は、そのまま残る課題です。
税理士が作った申告書も、社内で説明する仕事が残る
上場準備では、税理士に作成を任せた申告書も、会社の人が内容を確かめて説明できる状態が求められます。税理士が作業することと、社内で中身を把握していることは、別の話です。
授業では、銀行に聞かれて「税理士が作成しているので分かりません」と返すより、その場で答えられたほうがいい、という話がありました。上場を目指していない会社でも起こるやりとりです。自社の数字について答えられることは、普段の経理にも必要な仕事です。
上場準備の経験は、経理のキャリアにもつながる
上場に向けては、会社の財産や借入、お金の出入りなどを説明する書類にも関わります。決算をまとめる経験に、社外へ数字を説明する経験が加わります。授業では、この開示の経験が、次の職場を選ぶ際にも評価される点に触れています。
ただ、今の仕事がいっぱいのまま、業務だけを増やすのは難しいもの。上場費用の話でも、外部への報酬に加えて、経理の増員やシステムの費用が挙がりました。経理に何を求めるかが変われば、それを担う人数や道具にも費用がかかります。
次回のご案内
関連するテーマとして、会社のお金の集め方を学ぶ回があります。2026年10月10日(土)11時から「ベンチャーファイナンス【入門編】全3回シリーズ①」、10月24日(土)11時から「ベンチャーファイナンス【調達編】全3回シリーズ②」です。
CuelLinkでは、経理の実務をテーマにしたLive授業を開いています。今回の授業もアーカイブでご覧いただけます。
