8月に入って、決算のニュースが一気に増えました。
東証の発表予定を見ると、8月6日は323社、8月7日は680社。数だけなら1年でいちばん濃い週です。
ただ、ここで出ているものの大半は本決算ではありません。
3月期決算の会社にとって、この時期に出るのは第1四半期。4月から6月までの3か月分の成績です。日本の上場企業は3月期決算が多く、その第1四半期は6月末で締まります。締めてから1か月ちょっとで発表するので、8月の頭に集中します。
上場企業は、決算を年に4回やっている
決算は、みなさんの会社で年に何回ありますか。
上場していない、あるいは上場準備中でもない限り、1年に1回であることがほとんどですよね。事業年度が終わったら数字を締めて、決算書を作って、税務申告まで持っていく。あの一巡が年に1度きます。
上場企業は、これを3か月ごとにやっています。
3月期決算の会社なら、4月から6月、7月から9月、10月から12月、1月から3月の4区切り。年に4回、数字を締めて外に出しているわけです。
このうち最後の1回が1年間を締めくくる本決算で、残りの3回が四半期決算です。
いま8月に並んでいるのは、その1回目にあたります。
決算のたびに出てくる書類は2種類ある
上場企業は決算のたびに、性格の違う2つの書類を出しています。
ひとつは決算短信。取引所のルールで出すもので、決算の数字と通期の予想が載ります。位置づけは速報です。
もうひとつは、金融商品取引法で提出が決まっている報告書。短信より後に出る詳しい版で、注記や事業の状況まで入ります。
以前は、この詳しい版が4回とも出ていました。本決算のぶんが有価証券報告書、残りの3回が四半期報告書です。
その四半期報告書が、いまはない
2024年4月1日以後に始まる事業年度から、四半期報告書は廃止されました。代わりに置かれたのが、半年に一度の半期報告書です。
結果として、第1四半期と第3四半期に出るのは取引所ルールの決算短信だけ。詳しい版はもう出てきません。
つまり第1四半期は、開示される情報がもともと絞られている場面です。そのぶん、短信に何が書かれているかの比重が上がりました。
なかでも効くのが、通期の予想をどうしたかという1点です。3か月の実績そのものより、その先の見通しをどう置き直したかのほうが情報量が多い回もあります。
今年の4月から6月は、まさにそれが分かれた回でした。
ここがポイント
- 上場企業は決算を年4回。うち1回が本決算で、残り3回が四半期決算
- 第1四半期と第3四半期は四半期報告書が廃止され、決算短信だけになった
- 見どころは3か月の実績より、通期予想をどう扱ったか
トヨタは四半期が減益でも、通期を引き上げた
8月4日に発表されたトヨタの2027年3月期 第1四半期を見てみます。
営業収益は13兆5254億円で、前年同期から1兆2720億円の増加。10.4%の増収です。
一方で営業利益は1兆634億円。前年同期から1026億円減って、8.8%の減益でした。連結販売台数も239万5000台と、前年同期の99.3%にとどまっています。
増収なのに減益。ここだけ見ると「今期は苦しいのかな」と読みたくなります。
ところが同じ日に、トヨタは通期の見通しを引き上げました。四半期の実績と並べると、向きが逆になっているのが分かります。
| 4〜6月の実績 | 通期の予想 | |
|---|---|---|
| 営業収益 | 13兆5254億円(10.4%増) | 51兆円 → 54兆円 |
| 営業利益 | 1兆634億円(8.8%減) | 3兆円 → 3兆4000億円 |
営業利益で4000億円の引き上げです。3か月は減益だったのに、1年間の予想は上げている。
引き上げの中身も開示されています。
大きいのは為替です。前提のレートを1ドル150円から160円に置き直したことで、営業利益が4800億円ぶん増える計算になっています。次が営業面の努力で2300億円(うち中東情勢に関わる分が1050億円)。一方で原価改善の努力が1200億円のマイナス、諸経費が500億円のマイナス、その他が1400億円のマイナス。差し引きで4000億円の上積みです。
ここで見ておきたいのが、トヨタ自身が資料に書いている一文です。
為替・スワップ等の影響除き:+600億円
4000億円のうち、為替を除いた部分は600億円しかありません。上方修正という見出しの中身は、大部分が前提レートの置き直しだったということです。
つまり4月から6月の3か月で何が起きたかではなく、この先の前提が変わったことを織り込んだ修正でした。
なお、引き上げたとはいえ前期の実績3兆7662億円と比べれば9.7%の減益予想です。5月に置いた見通しから上積みした、という話であって、去年より儲かる見通しに変わったわけではありません。
さらに、この見通しには令和8年熊本地震の影響がまだ反映されていないとも書かれています。前提はこの先も動きます。
もうひとつ目を引くのが、親会社の所有者に帰属する四半期利益が1兆4770億円と、前年同期から6356億円ふえて75.6%の増益になっていることです。
利益は1つの数字ではなく、段になって積み上がります。段ごとに並べると、どこで向きが変わったかが見えます。
- 営業利益:8.8%の減益
- 税引前四半期利益:56.8%の増益
- 親会社の所有者に帰属する四半期利益:75.6%の増益
本業の段では減っていて、そのすぐ下の段でもう増益に転じています。
なお、この第1四半期から日野自動車とその子会社70社が連結の範囲から外れました。前年同期とは連結の範囲そのものが違うので、増減率をそのまま比べることはできません。
台数で見ると、その差がはっきり出ます。連結販売台数は前年同期から1万6000台の減少。ところがトヨタの説明によれば、日野の影響を除くと1万台の増加になります。
同じ期間の同じ会社で、減ったとも増えたとも言える。どちらも嘘ではなく、範囲の取り方が違うだけです。
減益という見出しだけで判断すると、この動きは見落とします。そして増減率を見るときは、連結の範囲が前年と同じかどうかもあわせて確かめる必要があります。
では、同じ時期に決算を出した他社も同じ動きだったのか。並べてみると、そうではありませんでした。
一方、日産はどうだったか
その前日、8月3日に発表された日産を見てみます。
売上高は2兆9642億円で前年同期比9.5%の増収。営業利益は779億円で、前年同期の791億円の赤字から黒字に転換しました。当期純利益も38億円で、前年同期の1158億円の赤字から浮上しています。
売上高営業利益率で見ると、前年同期のマイナス2.9%からプラス2.6%へ、5.5ポイントの改善です。
グローバル販売台数は70万1000台。前年同期の70万7000台から6000台の減少で、ほぼ横ばいでした。
ここで日産は、通期の台数見通しを引き下げました。グローバルの小売販売台数は前回見通しの330万台から315万台へ、生産台数は295万台から280万台へ。どちらも15万台の引き下げです。
中身を見ると、下げた場所が偏っています。日本、北米、欧州はいずれも前回見通しのまま。動いたのは中国で、71万台から58万台へ13万台減らしています。残る2万台がその他の地域です。
理由として挙げられているのは、第1四半期の販売台数がほぼ横ばいで推移したこと、中国市場の全体需要の減少、それに中東情勢の混乱が続くという見方です。
一方で、通期の業績見通しは5月に発表した内容を維持しました。売上高13兆円、営業利益2000億円、当期純利益200億円です。
台数の前提は下げたのに、業績の見通しは変えない。トヨタとちょうど向きが逆です。

ここがポイント
- トヨタ:四半期は8.8%の減益、それでも通期の営業利益予想を4000億円引き上げ
- 日産:台数の見通しは15万台引き下げ、財務の見通しは据え置き
- どちらも「3か月の実績」と「通期予想の動かし方」が一致していない
通期予想は、四半期の実績だけでは決まらない
2社を並べると、通期予想が何で動いているのかが見えてきます。
トヨタが上げたのは、為替という外側の条件が変わり、それがこの先も続くと見たからです。中東情勢の影響が想定より軽く済んだことも足されています。
日産が台数を下げたのは、中国の需要と中東情勢という、やはり外側の条件を見直したからです。それでも財務の見通しを据え置いたのは、コスト削減などの取り組みで吸収できると判断したという説明でした。
為替の前提も、2社で置き方が分かれています。第1四半期の実績レートは、どちらも1ドル160円でした。そのうえでトヨタは通期の前提を150円から160円へ動かし、日産は150円のまま置いています。
同じ相場を見て、同じ時期に予想を出しても、前提の置き方は同じになりません。
どちらも、判断のもとになっているのは3か月の実績そのものではありません。
予想を作ったときに置いた前提が、まだ生きているかどうか。そこが動いたときに、予想も動きます。
四半期の数字は、その前提を確かめる材料のひとつでしかない、という順番です。
進捗率は、そのまま信じない
第1四半期でよく使われるのが進捗率です。通期予想に対して、3か月でどこまで積んだかを見ます。
トヨタの営業利益で計算すると、1兆634億円 ÷ 3兆4000億円 で約31%。1年を4等分した25%を上回っています。上方修正の説明としては素直な数字です。
では日産はどうか。営業利益779億円 ÷ 通期予想2000億円で約39%。トヨタより高い水準です。
それでも日産は予想を据え置き、トヨタは引き上げました。進捗率が低いほうが動かし、高いほうが動かしていない。進捗率の高さと、予想を動かすかどうかは、そのままつながってはいません。
もうひとつ、25%を目安にできるのは、1年を通じて売上や利益が平らにならぶ会社の場合です。
季節の偏りがある業種では、この目安はすぐ崩れます。年末に売上が寄る小売、年度末に検収が集中する受託、夏と冬で動きが変わる商材。どれも「25%に届いていない=遅れている」とは言えません。
進捗率を見るときは、去年の同じ四半期の進捗率と並べるのが確実です。前年が22%で今年が24%なら、目安を下回っていても前に進んでいます。

自社の予実に置きかえると
ここまでの話は、上場企業だけのものではありません。
みなさんの会社でも、予算を立てて実績と突き合わせているなら、四半期ごとに同じ場面が来ているはずです。
3か月が終わったところで数字を並べると、たいてい予算とはずれています。そこで問われるのは「なぜずれたか」よりも先に、次のことです。
- 予算を作ったときの前提が、いまも成り立っているか
- 成り立っていないなら、どの前提が変わったか
- その変化は、この先も続くのか、一時的なものか
トヨタが為替の前提を置き直し、日産が台数の前提を置き直したのと同じ作業です。規模が違うだけで、やっていることは変わりません。
そして、前提が変わったのに予算をそのままにしておくと、残りの9か月ずっと「達成できない予算」と向き合うことになります。数字が合わないまま月次を回すのは、作る側にも見る側にも消耗が大きい。
四半期は、そこを直せる区切りです。
ここがポイント
- 予実のずれは、原因より先に「前提が生きているか」を見る
- 前提が変わったなら、予算のほうを置き直す判断がある
- 進捗率は前年同期の進捗率と並べて見る
まとめ
8月上旬に並んでいるのは本決算ではなく、第1四半期の決算短信です。
3か月の実績だけを見て良し悪しを決めると、トヨタのように「減益なのに通期は上げる」会社を読み違えます。見るべきは、通期予想をどう扱ったか、そしてその理由として何が書かれているか。
自社の予実でも同じです。四半期は、前提を点検して予算を置き直せる区切りになります。
記事中の数値は、各社が2026年8月に公表した決算資料によります。
参考: トヨタ自動車(決算報告 — 2027年3月期 第1四半期 決算短信・決算報告プレゼンテーション資料) 日産自動車(2026年度第1四半期決算を発表) 日本取引所グループ(決算発表予定日) EY Japan(四半期報告制度の廃止に関する政令・内閣府令等のポイント)
