入力は済んだ。この残高の中身まで分かる?|決算前の“下準備”入門
講師:税理士 猪股六津宏 約5分で読めます

開催の背景
決算の数字がそろって、ほっとしたところに「この残高の内訳を教えてください」。会計ソフトを開き直しても、何が残っているのか、すぐには分からない。そんなやり取りに心当たりはないでしょうか。
決算を税理士に頼む会社でも、社内でどこまで整えて渡すかはさまざまです。毎月細かく確かめる会社もあれば、年に一度まとめて整理する会社もあります。入力を終えたあとに調べ直すことが増えると、決算の忙しい時期に、過去の取引へ何度も戻ることになります。
この下準備は、年に一度の決算だけの話ではありません。毎月の数字が積み重なって、年次決算につながります。税理士から何を聞かれるのかが分かると、日々の入力で気に留めることも変わってきます。
9月19日の「決算前の“下準備”入門」は、会社からデータを受け取る税理士の猪股六津宏さんと、数字の中にある気になる箇所をたどる回でした。

猪股 六津宏講師税理士。スタートアップから中小企業、事業承継・相続まで、経営者のお金まわりに伴走。事務所名「イレブンナイン」は、常に100%を目指し続けるという想いから。
この回でやったこと
入力した数字を、申告を頼まれた税理士の目で見ると、こんなことに気づきます。
- 給料の欄の金額が増えても、給料そのものが増えたとは限りません。別の費用が混じっていることもあります
- 会計ソフトに取引がそろっていても、残高の内訳を調べ直す作業が残ることがあります
- 取引先を細かく分けていても、それが何に使われているかは別の話です
授業では、数字の増減、消費税の扱い、科目の内訳を押さえたあと、会計ソフトfreeeのサンプル会社へ。月ごとの数字が並ぶ「推移表」や、科目ごとの残高をまとめた「試算表」を開き、給料、広告宣伝費、家賃、未払費用などを見ていきました。

扱ったテーマ
- 売上・費用・利益を表す損益計算書(PL)の増減
- 資産や負債の残高を表す貸借対照表(BS)の変化
- 消費税をどう扱うかの設定「税区分」のばらつき
- 未払費用など、残高の中身が分かりにくくなる場面
- 科目の中身をさらに分ける補助科目と、freeeの品目の使い方
- 税務申告に添える明細「勘定科目内訳書」と日々の入力のつながり
つまずきやすいポイント
金額が目立つだけでは、入力間違いとは決まらない
いつもと違う数字には理由があります。ただ、増えた・減ったという事実だけでは、入力が間違っているのか、取引そのものが変わったのかは分かりません。
サンプル会社では、ひと月だけ給料が増えていました。画面でその中身を開くと、給料とは別の費用が入っています。給料の欄にあるから給料だと思っていたら、気づきにくい違いです。

一方、ある月にまとまって出ていた広告宣伝費は、それだけで誤りとは言えません。明細には「ウェブ広告出稿」とあります。何の支出かは分かりますが、それだけでは広告を出した期間までは分かりません。
一回限りの広告なのか、まとまった期間の分を払ったのか。これは授業で挙がった可能性で、その場でどちらかに決まったわけではありません。同じように目立つ金額でも、給料の例と広告の例では、分かったことが違います。数字に違和感があることと、誤りだと分かることの間には、まだ確かめたい事情があるのです。
残高が表示されていても、何が残っているかは分からない
会計ソフトに残高が出ていれば、内訳もすぐ分かりそうに思えます。ところが、さまざまな取引が一つに集まると、その金額を説明するのに手間がかかります。
未払費用は、すでに発生していて、まだ支払っていない費用です。授業の画面では、その残高の大半が、取引先の「未選択」にまとまっていました。

明細を開くと、支払いの登録などに伴う動きがずらりと並びます。取引がないわけではありません。それでも、まだ払っていないものが何なのかは、画面を眺めただけではつかみにくい状態です。
税理士の実務でも、補助科目のないところに取引が集まり、データを書き出して内訳を調べ直すことがあります。授業では、その苦労と画面の長い明細が重なりました。入力を終えたデータにも、「この残高は何か」に答えるための作業が残っていることがあります。
細かく分けていても、使う人の知りたい内訳とは限らない
取引先や品目を丁寧に入れていても、それで必要な情報がそろうとは限りません。誰に払ったかが分かることと、何の費用だったかが分かることは別だからです。
話に挙がったのは、さまざまな収入をまとめる「雑収入」。補助金や税金の還付などが一つの科目に入る、仮の例です。同じ雑収入でも内容は違います。あとから一つずつ分け直すとなると、日々の入力とは別に時間がかかります。
何のために今の項目を分けているのか。授業では、その問いに立ち返りました。
細かいほど丁寧な仕事に見えますが、その内訳を誰が何に使っているのかは、入力画面だけでは分かりません。
自分で入力した数字ほど、見直すときに思い込みが入る
一度自分で確かめた数字は、「もう見たから合っている」と思いやすいものです。授業では、自分ではない人が作ったつもりで見ることが大切だと話していました。
同じ給料の科目違いは、消費税の設定が並ぶ画面でも引っかかります。見る画面が変わると、同じ誤りに別の角度から気づけます。
税区分は、金額や科目名に比べると目が向きにくい項目です。数字をそろえる仕事に慣れていても、税務の目線では気づいていなかったことがある。見慣れた画面に、まだ確かめていないことが残っているかもしれません。
次回のご案内
決算の数字を整えたあと、その数字から会社の姿を読む授業もあります。2026年11月28日(土)11時からは「くら寿司の決算書を読む 〜身近な企業で会計を学ぶ〜」。講師は齋藤和也です。
CuelLinkでは、経理の実務をテーマにしたLive授業を開いています。今回の授業もアーカイブでご覧いただけます。
