「AIがそう言ったので」は通らない|経理がAIに任せていいこと・ダメなこと
講師:末廣修平約5分で読めます

開催の背景
請求書をAIに読み取ってもらえたら、入力が少し楽になりそう。でも、取引先の名前や口座情報が載っています。「これを渡して、会社に怒られないだろうか」と手が止まる。私生活では気軽に使っていても、仕事になると迷うことがあります。
会議のメモをまとめたいときや、仕訳の候補を出してほしいときも同じです。便利そうな使い方を知るだけでは、自分の会社で使ってよいかまでは分かりません。AIがパソコンの操作まで担うようになると、任せた仕事が会社にどんな影響を及ぼすかも気になります。
8月29日の「『AIがそう言ったので』は通らない 経理がAIに任せていいこと・ダメなこと」は、こうした迷いを扱った回です。講師は、中小企業の業務改善やAI活用を支援する末廣修平さん。日々の仕事でAIを使う前に、何が分からなくて止まっているのかを整理しました。

末廣 修平講師CuelAI講師。ソフトバンクで9年間、法人営業やネットワーク構築、社内DX・業務改善プロジェクトを経験。その後は経営支援会社の執行役員として、企業向けのAI・DX研修や業務改革を支援。生成AIを日々の仕事にどう取り入れ、業務改善につなげるかを実務に沿って伝えることを得意としている。
この回でやったこと
AIに仕事を頼む話には、意外と見落としやすいところがあります。
- 請求書のようなケースをAIに渡してよいかは、講師でもその場で即答できません。会社の事情が分からないためです
- メールやクラウド会計でも、文字やファイルを社外のサーバーへ送っています
- AIの失敗には、情報が漏れるだけでなく、元のファイルが壊れて戻せなくなるものもあります
授業では、会議メモや請求書など身近なケースから、AIの得意な仕事と限界を押さえました。そのうえで、請求書処理を例に、仕事の中で任せる範囲を考えています。最後には、自分の業務について検討するためのWebページも紹介されました。
扱ったテーマ
- 情報の整理、形式の変換、候補を出す仕事とAI
- もっともらしい誤りと、会社のルールを知らないまま返される回答
- メール・クラウド会計と生成AIでの情報の扱い
- 入力した情報の学習利用、外部サービスとの連携
- 請求書処理の中にある、性質の違う作業
- ファイルの変更が業務に及ぼす影響
- 社内の承認と、最終判断をする人の責任
つまずきやすいポイント
AIに渡してよいかは、仕事の名前だけでは決まらない
「経理業務にAIを使っていいですか」と聞かれても、それだけでは答えが出ません。経理にはいくつもの仕事があり、一つの仕事の中にも違う作業が含まれているからです。
授業の最初に出てきたのは、お客さまも参加した会議のメモや、取引先の情報が載った請求書でした。AIに渡してよいか、少し考える時間がありましたが、即答を求めるクイズではありません。会社の情報やルールを知らなければ、講師にも判断はつかないケースです。
請求書の処理にも、書かれた内容を読む作業から、会計上の処理を決める作業、振込までがあります。全部をまとめて任せようとすると、難しい部分が一つあるだけで「AIは使えない」となりがちです。同じ請求書に関わる仕事でも、AIに頼む内容はずいぶん違います。
社外に情報を送っているのは、AIだけではない
AIに会社の情報を入れるのは怖い。でも、普段のメールには請求書を添付し、クラウド会計にもアップロードしています。自分のパソコンから外へ情報を送る点は、どちらにも共通しています。
授業でも、請求書のケースに「会計ソフトには渡していますよね」というやりとりがありました。いつもの仕事では気にならなかったことが、AIという名前になると急に不安になる。その違いを、情報がどこへ送られるかという話から捉え直しています。
ただ、共通点があるからといって、情報の扱いまで同じとは限りません。入力した情報がAIの学習に使われるか、ほかのサービスとどうつながるか、といった違いもあります。授業では設定や契約、社内の承認も取り上げました。AIだけを特別に怖がるのではなく、メールやクラウド会計と並べて同じ目で考えてほしい、というのが講師の考えです。
速く大量に処理できる力が、修復を難しくすることもある
AIを使った失敗は、情報漏れだけではありません。ファイルの中身を意図と違う形に変えてしまい、元に戻せなくなる危険もあります。
授業で挙がったのは、AIが大量のデータを処理するプログラムを組んで動かす場合の話です。これは当日に起きた事故ではなく、起こり得る失敗の例です。短時間で処理が進んでも、結果がめちゃくちゃになり、元の状態が残っていなければ困ります。変更の量が多いほど、手で直すのも難しくなります。
AIは、指示しなくても大量のデータを処理するプログラムを組んで走らせることがあります。元のファイルを書き換える作業になると、失敗したときの影響は大きくなります。速く終わる便利さには、短時間で広い範囲に変更が及ぶ怖さもあるのです。ファイルを扱うときの具体的な備えは、授業の中で扱っています。
いまのAIは、パソコンの操作もこなし、振込の実行まで進められます。ただ、実行できても、その結果の責任を引き受けるわけではありません。授業で請求書の処理を工程ごとに分けたときも、登録や振込は人が担う工程に置かれていました。
AIの「大丈夫です」は、社内の承認にはならない
AIは、最初から自分の会社のルールを知っているわけではありません。「この仕事に使っていい?」への返事が頼もしくても、その回答だけでは会社の了解を得たことになりません。
授業の後半では、AIを使ってよいか検討する際に、AI自身にも相談する方法が紹介されました。自分の業務に沿って情報を整理してもらえると、考えやすくなります。ただし、分かりやすくまとまった回答にも、正しさの保証はありません。
「こうすれば完璧です」と返ってきても、実際の社内事情やお客さまへの影響が抜けているかもしれません。仕事で何か起きたとき、「AIがそう言ったので」だけでは説明にならないのです。授業の最後に置かれたのは、準備にかかる時間を減らし、人が判断や改善に頭を使えるようにするという話でした。任せる範囲を考えることは、AIを使ったあとに自分が何を担うかを考えることでもあります。
質疑で出たこと
加工情報にしないといけない、ということですよね?
ダミー情報、つまり実際の情報とは違う架空の内容なら、AIに渡す情報として問題ないという答えでした。一方、社内の情報をそのまま使ってよいかは、会社のルールなどの確認が必要です。すべての情報を一律に扱う話ではありません。
次回のご案内
AIに任せる仕事を、実際に手を動かして見分けたい方へ。2026年10月17日(土)・24日(土)に、末廣さんの「AIゼミ 基礎編」(全4回)があります。第1回のテーマは「AIに任せてよい仕事を見分ける」です。
CuelLinkでは、経理の実務をテーマにしたLive授業を開いています。今回の授業もアーカイブでご覧いただけます。
