上場企業の決算|開示という、もう一つの仕事
講師:公認会計士 齋藤和也 約5分で読めます

開催の背景
上場企業の経理は、何にいちばん時間を使っていると思いますか。
決算そのもの、と答えたくなりますが、実際は開示です。上場企業の決算業務は、その大半が開示のためにあります。「開示のための決算」と言っても言い過ぎではないくらいで、ここが中小企業といちばん違うところです。
決算講座の上場企業編、2回目です。1回目では、中小企業と上場企業では決算をする目的そのものが違うことを確認しました。税務申告のための決算なのか、社会に対して公表するための決算なのか。目的が違えば、会計基準も、仕訳の仕方も、求められる正確さも変わります。
CuelLinkの受講生に上場企業の方は多くありません。それでも扱うのは、上場企業がやっていることの一部は、いまの会社にそのまま持ち込めるからです。
この回でやったこと
まず、上場企業が開示している書類を種類ごとに並べました。何を、いつまでに、どの決まりに基づいて出すのか。名前は聞いたことがあっても、根拠と期限まで揃えて見る機会はあまりありません。
次に、実際に開示されているものを画面で開いて見ています。前日にTDnet(適時開示情報閲覧サービス)へ出ていた開示を2件、それから、ある企業の決算説明資料を最初から最後までめくりました。書類の名前を覚えることではなく、中に何が書いてあるかを見ることが目的です。
最後に、この業務がキャリアにどうつながるのかまで話が及びました。
扱ったテーマ
- 上場企業が開示する書類の種類と、それぞれの位置づけ
- 決算短信と有価証券報告書で、根拠となる決まりが違うこと
- 四半期報告書の廃止と、半期報告書への移行
- 適時開示(TDnet)で何が公表されるのか
- 決算説明資料の中身と、KPIの見せ方
- 開示の期限から逆算する決算スケジュール
- 決算が固まる前に納付期限が来る税金への備え
- 株式会社の決算公告という、あまり知られていない義務
- 開示業務を部門横断でどう回すか
- 連結と開示の経験が、転職市場でどう見られるか
つまずきやすかったところ
まず、書類が5種類あり、根拠も期限もばらばらです。
| 書類 | 頻度 | 分量の目安 | 期限 |
|---|---|---|---|
| 決算短信 | 年4回 | 30〜60ページ | 決算日から45日以内 |
| 有価証券報告書 | 年1回 | 100〜300ページ | 決算日から3ヶ月以内 |
| 半期報告書 | 年1回 | — | — |
| 適時開示 | 都度 | フォーマット自由 | 事象が生じたとき |
見落としやすいのが根拠の違いです。決算短信は証券取引所が定めたルール、有価証券報告書は金融商品取引法という法律。同じような内容を別々に出しているのは、拠って立つものが違うからです。
期限の45日は、見た目より厳しいものでした。 45日目に数字が確定していては間に合いません。社内で数字を固め、上司と役員の承認を得て、監査法人の監査を受けて、そこでようやく開示です。逆算すると、経理部の中では20日から30日で数字を固める必要があります。中小企業で決算書と申告書ができあがるのが2ヶ月後だとすれば、まったく違う速さです。
期限のずれが、資金繰りにも効いてきます。 有価証券報告書は3ヶ月以内でよくても、消費税の納付は2ヶ月以内です。決算の数字が固まりきる前に、納税日が来ます。 概算で仮払いして後から調整する、という運用が要る。ここは上場していない会社でも、申告期限を延長していれば同じことが起きます。延長できるのは申告であって、納税ではないからです。
適時開示は、実物を見ないと掴めない領域でした。 業績予想の修正、M&A、資本業務提携、代表者の交代、重大な事故や不祥事。授業では前日分のTDnetを開き、新株予約権の大量行使に関する開示と、中期経営計画を上方修正した開示を実際に読みました。後者では、売上の上振れは数%だったのに利益が大きく伸びていて、だから修正が必要になったという判断の跡が読み取れます。
フォーマットが決まっていないぶん、適時開示はチェックが重くなります。桁がずれていないか、四捨五入すべきところが切り捨てになっていないか。公表する数字の責任は、最後まで経理が担っています。
そして、上場していない会社にも開示の義務があります。 株式会社は決算公告をしなければなりません。官報か、自社のウェブサイトなどの電子公告で決算情報を公表する義務です。知られていないだけで、これも立派な開示業務です。
質疑で出たこと
有価証券報告書の窓口担当は、多部門と社外を束ねるPMの経験が積めます。受け身ではなく、主体的にプロジェクトを進める力が要ります。(齋藤)
開示は経理だけで作れる分量ではありません。KPIは営業やマーケティングから、人員の情報は人事から集めます。社外では監査法人、弁護士、税理士とやり取りが発生します。いつまでに、どこへ、何を入れてもらうかを設計して回す仕事です。
これが転職の場面で効いてきます。ベンチャー企業や上場企業の求人では、「連結の経験はありますか」「開示の経験はありますか」がほぼ必ず聞かれます。 中小企業では仕訳や決算処理の正確さが問われるのに対し、上場企業では開示を理解しているかが問われる。見られているものが違います。
ただし、大きすぎる会社は逆効果になることもあります。管理部門だけで100人を超えるような規模だと業務分担が細かく、担当できる範囲が狭くなる。上場前後の規模の会社のほうが、幅も質も伸ばしやすい、という話でした。
いまの会社でできることも示されました。 自分の会社に似た企業の決算説明資料を探して読む。そこに載っている情報のうち、役員に報告したほうがよいものをひとつでいいので選んで、試算表と一緒に出す。試算表を提出して終わりではなく、中を分析して報告する。それを嫌がる経営者はいません。
次回のご案内
CuelLinkでは、成長企業で働くという選択肢についての発信を9月ごろから強めていく予定です。ベンチャーファイナンスを扱うLive授業も準備しています。5年前の自分といまの自分で、やっていることにどれだけ差があるか。そこから考えてみてください。