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授業レポート

500件の質問に、2週間で答えることも|IPOの基本【上場直前編】

講師:齋藤和也 約5分で読めます

開催の背景

前の担当者が作った資料について、「この数字の根拠を教えてください」と聞かれた。決算書は残っているのに、内訳が見つからない。月末の仕事もあるなかで、古いフォルダを探し続ける。そんな経験はないでしょうか。

IPOは、会社の株式を初めて証券取引所に上場すること。その準備では、過去の数字をたどり、会社の事情を知らない人にも説明する仕事が増えます。今の集計が正しくても、以前の記録が足りないと、そこで手が止まってしまいます。

上場の予定がない会社でも、担当を引き継ぐときや、社長に業績を説明するときには同じ難しさがあります。必要になってからでは、当時の担当者に聞けないことも。日々残している記録の大切さが、上場直前の仕事から見えてきます。

9月26日の「IPOの基本【上場直前編】」は、全3回シリーズの最終回。講師は公認会計士・税理士の齋藤和也です。

齋藤和也

齋藤 和也講師公認会計士・税理士。株式会社Cuelの共同創業者。ベンチャー企業の上場準備の支援に数多く関わってきました。

この回でやったこと

上場前の経理の仕事には、こんな場面があります。

  • 証券会社や監査法人から約500件の質問が届き、2週間ほどで回答を求められることもある
  • 申請書類は、印刷会社と契約すれば全部作ってもらえるわけではない。会社の中で書く仕事が残る
  • 上場企業の平均年収が高くても、自社が上場すれば自分の給料も上がる、とは言えない

どれも「上場準備に関わる」と聞くだけでは、想像しにくい話です。

授業では、上場前に社内のルールを実際に使うところから、申請書類づくり、投資家への説明、上場後の仕事へと進みました。最後は、その経験を自分のキャリアとしてどう語るかまで扱っています。

授業は、上場直前についてのよくある3つの誤解から始まりました
授業は、上場直前についてのよくある3つの誤解から始まりました

扱ったテーマ

  • 社内の規程やマニュアルと、実際の仕事のずれ
  • 通常業務に加わる申請書類づくりと、審査・監査への回答
  • 申請書類「一の部」に載せる過去の数字と、その根拠
  • 売上や利益が増減した理由を、文章で説明する難しさ
  • 上場前後の投資家への説明と、経理の関わり
  • 上場準備で経験した仕事を、キャリアとして伝えること

つまずきやすいポイント

上場直前の忙しさには、それまでの準備が関わる

上場直前にどれだけ仕事が重なるかは、それ以前に準備を進めていたかでも変わります。規程やマニュアルを用意しても、実際に使ってみると、書いた通りに仕事が進まないことがあるからです。

規程と実際の仕事が違っていた、運用中にミスが起きた。そうしたことも記録に残しておく、という話がありました。特定の会社の出来事ではなく、起こりうる例です。書類がそろったあとにも、社内で使いながら問題を見つける時間が要ります。

そこへ重なるのが、質問への対応です。提出するものは申請書類だけではありません。規程や契約書、主要な取引先とのやりとりも含まれます。それらに対して、約500件の質問に2週間ほどで答えてほしい、と求められることもあります。

その間も、支払いや請求、毎月の決算は続きます。通常業務をしながら書類を作り、その書類についてまた答える。上場直前の忙しさを知ると、規程やマニュアルを早めに作って回し始めておく準備が、なぜ必要なのかが分かります。

過去の数字の根拠が、上場の時期に関わることもある

古い数字の根拠が分からないと、上場に向けた審査が長引くこともあります。決算書の金額が残っていても、説明に必要な記録までそろっているとは限りません。

授業で扱った「一の部」は、上場に向けて会社の情報をまとめる申請書類です。過去の業績も載せるため、以前の担当者が作った数字までさかのぼる仕事が生じます。

たとえば、その間に担当者が何度も代わり、データや書類が見つからなかったら。これは授業で挙がった仮の場面です。数字を直そうにも、何を根拠に直せばよいか分からない。説明では、根拠が出せず、上場の延期を検討する可能性にまで話が及びました。

資料を探す苦労が、会社の予定にも関わってくるのです。今の担当者が残す記録は、後任が過去の数字を説明するときにも必要になります。

数字の理由を書くには、会社で起きたことを知る必要がある

売上が増えた理由を文章にするには、集計した数字に加えて、事業の中で何が起きたかを知る必要があります。

授業で挙がったのは、売上が伸びた理由を考える仮の例です。お客さまが増えたのか、ひとりあたりの購入額が増えたのか。売上の合計だけでは、そこまでは分かりません。

経営者の視点で業績などを分析し、説明する文章を「MD&A」と呼びます。ここを書くには、経理と、会社の計画を考える経営企画、経営陣とのやりとりが必要です。利益が減った理由や、利益と実際のお金の出入りがずれる理由も、説明する内容に含まれます。

経理が実際に手を動かすもの。MD&Aもこの中に入っています
経理が実際に手を動かすもの。MD&Aもこの中に入っています

印刷会社からは、ひな型や作成システム、助言などの支援を受けられます。ただ、実際に手を動かして書くのは会社の側です。

上場しない会社でも、上場準備につながる経験は積める

業務マニュアルを作ったり、仕事の進め方を改善したりする経験は、上場の予定がない会社でも積めます。上場準備で求められる仕事には、普段の経理と重なるものが多くあります。

授業の終盤では、上場企業と未上場企業の年収を比べたデータも取り上げました。ただし、それは会社ごとの平均の比較です。自分の会社が上場したら、給料が同じように上がるという意味ではありません。

キャリアの話でも大切なのは、自分が具体的にどんな仕事をしたかです。業務改善には、今の問題を見つけること、関係する人に説明すること、新しい仕事の流れをマニュアルにすることなどが含まれます。

「上場準備に関わった」という経歴だけでは、その人が担当した仕事までは分かりません。今の会社で作ったものや、改善した経験も、自分の仕事として具体的に話せる材料になります。

次回のご案内

会社の成長とお金の関係を学ぶ回が続きます。2026年10月10日(土)11時からは「ベンチャーファイナンス【入門編】全3回シリーズ①」、10月24日(土)11時からは「ベンチャーファイナンス【調達編】全3回シリーズ②」を予定しています。

CuelLinkでは、経理の実務をテーマにしたLive授業を開いています。今回の授業もアーカイブでご覧いただけます。

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