クリティカルシンキング|本質を見極める思考法
講師:公認心理師 別府麻美 約4分で読めます

開催の背景
「コストを削減してほしい」と言われて、費目を並べ、前年と比べ、根拠を揃えて持っていった。なのに話が前に進まなかった。そんな覚えはないでしょうか。
原因は資料の出来ではないかもしれません。そもそも答えるべき問いがずれていた、ということが起こります。どれだけ丁寧に整理しても、問いが違えば届きません。この回で扱ったのは、そこに気づく力です。
CuelCollegeでは、コミュニケーションを4つに分けて順に扱ってきました。人の話を聞く、伝える、そのあいだにある論理的に考える(ロジカルシンキング)。この回で最後のひとつ、問いそのものを疑うクリティカルシンキングに進みます。
講師は公認心理師の別府麻美さんです。
この回でやったこと
前半はロジカルシンキングの復習から入りました。漏れなく重複なく考えるMECE、結論と根拠を積み上げるピラミッドストラクチャー、そしてビッグワード。
ビッグワードは、みんなが分かった気になっているのに、具体的に何をするかは誰にも分からない言葉のことです。「徹底します」「改善します」「頑張ります」。言った側は伝えたつもりで、聞いた側は理解した気になる。だから話が終わったあとに何も動きません。
後半がクリティカルシンキングです。批判的思考と訳されますが、けなすことではありません。「そもそもこれは正しいのか」と、自分の前提や思い込みのほうを疑う考え方です。
ロジカルシンキングとの関係も整理されました。ピラミッドストラクチャーでいえば、いちばん上に置かれた問いを正しいものとして下へ分解していくのがロジカルシンキング。そのいちばん上の問い自体が正しいのかを問うのがクリティカルシンキングです。
扱ったテーマ
- MECE(漏れなく、重複なく)
- ピラミッドストラクチャー(結論と根拠のつながり)
- ビッグワードとは何か、なぜ危険なのか
- クリティカルシンキングとロジカルシンキングの違い
- 本質的な問い(イシュー)の見つけ方
- 「本当に?」と「だから何?」という2つの問い返し
- 事実だけの報告と、意思決定を引き出す報告の差
- クリティカルシンキングを鍛える3つの習慣
- AIの答えをどう扱うか
つまずきやすかったところ
問いをどこに置くかで、選択肢がまるごと入れ替わります。 授業では受講生から実際の悩みが持ち込まれ、その場で一緒に組み立て直しました。
はじめに出てきた問いは「いま使っているものを買い続けるか、別の方法を探すか」でした。ところが一段上に「そもそも何のためにこれをやっているのか」を置き直すと、下に並ぶ選択肢がそっくり変わります。 しかも、置き直した問いが2通り考えられて、どちらを選ぶかで検討すべき範囲がまったく違うものになりました。
自分で立てた問いは、たいてい下から積み上がっています。だから上に何を置くかを意識しないと、無意識のうちに問いが狭まっている。ここが実際にやってみないと分からないところで、講師も「本当はワークショップで訓練したい領域」と話していました。
「本当に?」と「だから何?」の使い分けも要点でした。 ピラミッドを上から下へたどるときは「本当にそうなる?」、下から上へたどるときは「だから何が言える?」。どちらか一方だけでは、つながりの切れ目を見つけられません。
報告の形も、ここに直結します。 たとえば「この作業に週5時間かかっています」という報告。事実としては正しいのですが、受け取った側は「だから何?」で止まります。何が困っていて、どれだけ損をしていて、だから何をしたいのか、そして相手に何を判断してほしいのかまで揃ってはじめて動きます。授業では、同じ事実がどう変わると意思決定につながるのかを、報告文を並べて確認しました。
上司の時間をもらうときの組み立ても同じです。報告なのか相談なのか、何分ほしいのか。そして相手がイエスかノーで答えられる形にして持っていく。忙しい相手ほど、判断だけを求められるほうが動けます。
注意点もひとつ。 ロジカルシンキングもクリティカルシンキングも、日常の人間関係に持ち込むと関係が壊れます。仕事では歓迎されるものが、家族や友人とのあいだでは働かない。あくまで業務で使うもの、という前置きから授業は始まりました。
質疑で出たこと
経理業務はマニュアルを作る、作業をするといった具体の側にあります。それを抽象化していこう、とはよく伝えているのですが、逆に具体的なタスクに落とし込むのは自分は苦手だなと気づきました。(齋藤)
抽象化そのものもビッグワードになりうる、という話につながりました。「抽象化する」と言われて、何をどのレベルまでやることなのかは、人によって違う。5W1Hに落として初めて揃います。
「より良い生活」「幸せ」も同じです。お金があることなのか、家族といられることなのか、趣味があることなのか。分かった気になるけれど、実は分かっていない言葉は、日常の会話にも仕事の会議にも紛れ込んでいます。
経理はすべてを数字にしなければならない仕事です。だからこそ、数値化できていないビッグワードが残っていないかを見る癖が効いてくる、という締めくくりでした。
次回のご案内
CuelCollegeのコミュニケーション講座は、聞く・考える・伝えるを一巡しました。本質的な問いを立てる訓練は、いずれワークショップの形でも扱う予定です。CuelLinkでは、経理の実務に加えて、こうした仕事の土台になる回も定期的に開いています。