「新人レベルのホワイトカラーの仕事は、1〜5年で半分くらい影響を受けるかもしれない」

そんな予測を出したのは、対話AI「Claude」をつくるAnthropic社のCEO、ダリオ・アモデイ氏です。

こう聞くと、少しドキッとします。

経理の仕事もなくなるの? 今から勉強しても遅いの? 入力や仕訳がAIに任せられるなら、人は何をするの?

そんな不安が出てくるのは、とても自然なことだと思います。

ただ、実際に原文を読んでみると、見出しだけで受ける印象とは少し違いました。単に「仕事がなくなるぞ」と煽る文章ではありません。むしろ、AIという大きすぎる力を、人間社会がまだ扱いきれていない。その危うさを、かなり広い視点で書いた文章でした。

その中に、雇用の話があります。

今回は、その部分を経理の仕事に引き寄せて読んでみたいと思います。

AIで経済は伸びる。でも、入口の仕事は細るかもしれない

アモデイ氏が心配しているのは、AIによって経済全体は大きく伸びるかもしれない。でもその一方で、若手や未経験者が最初に任されるような仕事が、急に細ってしまうかもしれない、ということです。

ここが少し怖いところです。

これまでの技術革新も、たくさんの仕事を変えてきました。農業も、工場も、事務仕事もそうです。でも多くの場合、人は時間をかけて別の仕事へ移っていくことができました。

ところがAIは、その変化がとても速い。

しかも、影響を受けるのが一つの職種だけではありません。文章を書く、調べる、計算する、整理する、判断材料をつくる。いわゆる「頭を使う仕事」全体に広がっていく可能性があります。

だからこそ、アモデイ氏は強い言い方をしています。

AIは、特定の仕事だけを置き換える道具ではなく、人間の知的労働そのものの、かなり広い代替になり得る。そういう見立てです。

ただ、予測はまだ揺れている

AIをつくる側の3人の見解も割れている。予測はまだ揺れているので、一つの数字に振り回されなくていい

ここで知っておきたいのは、AIをつくっている本人たちでさえ、見方が大きく割れているということです。

たとえば、テスラのイーロン・マスク氏はかなり強気です。「3〜7年で、世の中の仕事の半分以上をAIとロボットがやるようになる」と言い、いずれは介護や子育てまでロボットが担う、とまで話しています。

一方で、マイクロソフトのサティア・ナデラ氏は、もっと落ち着いています。AIを一番売っている側の人なのに、「AIがすごいかどうかは、実際に経済が伸びてから判断すべきだ」とブレーキをかける。しかも、こうも言っています。「AIが進むほど、人の価値はむしろ上がる。人の方向づけがなければ、AIはただ空回りするだけだ」と。

そして当のアモデイ氏自身も、最初の強い予測のあと、少し違う言い方をするようになりました。仕事の9割が自動化されても、人は残りの1割に集中するようになり、その1割が大きくふくらむ。だから、仕事が丸ごとなくなるというより、一人ひとりの生産性が上がっていく、という見方です。

同じ「AIをつくる人」でも、ここまで言うことが違います。

「半分なくなるかもしれない」と聞くと、仕事が消える未来に見えます。 でも「残った1割がふくらむ」と聞くと、仕事の中身が変わる未来に見えます。

どちらが正しいのか。

正直、今の時点では誰にも分からないのだと思います。AIをつくっている会社のトップですら、数か月単位で表現が変わっている。だから、私たちがひとつの数字に振り回されすぎる必要はありません。

大事なのは、「仕事がなくなるかどうか」だけを見ることではなく、「どの仕事の価値が下がり、どの仕事の価値が上がっていくのか」を見ることです。

経理は、影響を受けやすい仕事だと思う

経理は『なくなる』より『変わる』。これまでのルーティン中心の経理業務と、これからの判断・説明・改善という経理の役割

ここで、経理の話に戻します。

経理は、AIの影響をかなり受けやすい仕事だと思います。なぜなら、机の上で完結する作業が多く、ルール化しやすい部分も多いからです。

たとえば、証憑を読み取る。 仕訳候補を出す。 請求書と入金を照合する。 毎月同じ形のレポートを作る。 数字の異常値を拾う。

こういう仕事は、確実にAIやシステムが得意になっていきます。今でもすでに、かなりの部分が楽になっています。

では、経理の仕事はなくなるのでしょうか。

私は、「なくなる」というより、「価値の置き場所が変わる」と考えた方が近いと思います。

昔、パソコンや会計ソフトが入ってきたときも、同じようなことが起きました。手書きの台帳や電卓での集計は大きく減りました。でも、経理や会計の仕事そのものがなくなったわけではありません。

むしろ、計算が速くなったことで、試算や分析がしやすくなりました。

「この前提を変えたら、利益はどうなるのか」 「この数字は、経営上どう見ればいいのか」 「どこに手を打つべきなのか」

そういう、数字を読んで考える仕事が増えていきました。

AIでも、おそらく同じことが起きます。

入力する仕事は減ります。 照合する仕事も減ります。 いつもの資料を作るだけの仕事も減ります。

でも、数字を見て、何を問題として扱うのかを決める仕事は残ります。

見つけるのはAI、引き受けるのは人

AIが「この数字はいつもと違います」と教えてくれる。 でも、それを問題と見るのか、一時的なブレと見るのか。 誰に、どの順番で、どう伝えるのか。 経営や他部署にどう動いてもらうのか。

その判断は、人が引き受けることになります。

経理の仕事で本当に難しいのは、実はここです。

仕訳を切ることよりも、 「これは今、確認すべき数字です」と言えること。

資料を作ることよりも、 「この数字を見ると、次に考えるべきことはこれです」と伝えられること。

正しい処理を知っているだけでなく、相手に分かる言葉で説明し、必要な人を動かすこと。

この部分は、AIが進んでも簡単には消えません。むしろ、作業が楽になるほど、人に求められる場面は増えていくと思います。

既存の仕事は、まだ残る。でも中身は変わっていく

ただ、ここで少し現実的な話をすると、今ある経理の仕事が明日から一気になくなるわけではありません。

請求書はまだ届きます。 入金確認もあります。 月次締めもあります。 上司や他部署からの確認もあります。

つまり、既存の業務はしばらく残ります。

でも、その中身は少しずつ変わっていきます。

これまで人が時間をかけていた入力、照合、集計、定型レポートの一部は、AIやシステムに任せられるようになる。そのぶん、人には「では、この数字をどう見るのか」「何を改善すべきなのか」「誰にどう伝えるのか」が求められるようになります。

ここで大事なのは、変化が起きてから慌てて追いつこうとするのではなく、今の仕事がまだあるうちに、次に求められる力を少しずつ身につけておくことです。

経理の仕事には、これから“余白”が生まれていくと思います。

それは、暇になるという意味ではありません。 手を動かす作業が減った先に、まだ誰の仕事とも決まっていない領域が増える、ということです。

業務フローを見直す。 数字の違和感を拾う。 経営に伝わる資料に変える。 AIの出した答えを確認し、必要なら修正する。 他部署と話して、実際に動いてもらう。

そういう余白を、自分のスキルで埋められる人が、これからの経理では強くなっていくはずです。

AIがあるから、勉強しなくていいわけではない

ここで誤解したくないのは、「だから基礎はいらない」という話ではない、ということです。

AIがあるから簿記を学ばなくていい。 AIが仕訳してくれるから、経理の基本は知らなくていい。

これは違います。

基本が分かっていないと、AIの出した答えが合っているのかどうか判断できません。 数字の意味が分からないと、経営や現場に説明できません。 処理の背景が分からないと、「今回は例外です」と言われたときに迷ってしまいます。

これからの経理に必要なのは、作業を全部自分で抱える力ではなく、AIやシステムを使いながら、数字の意味を引き受ける力です。

そのために、簿記や実務の基本はますます大事になります。

ただし、基礎だけで止まってしまうのも、少しもったいない。

これからは、会計の基本を押さえたうえで、AIやツールをどう使うか、数字をどう読むか、相手にどう伝えるかまで、少しずつ力を広げていく必要があります。

それは、短期的に何か一つ資格を取るという話だけではありません。

今の業務を続けながら、少しずつ視野を広げていくこと。 作業だけで終わらず、数字の意味を考える習慣をつけること。 「どう処理するか」だけでなく、「なぜそうなるのか」「相手にどう伝えるか」まで学んでいくこと。

それが、変化に振り回されないための準備になるのだと思います。

AIの変化は、怖がるためではなく、自分の現在地を知るために見る

AIのニュースを見ると、不安になることも多いです。特に「仕事が半分なくなる」といった言葉は、強く記憶に残ります。

でも、そこで止まらなくていいと思います。

見るべきなのは、「経理がなくなるかどうか」ではなく、「経理の中で、どの仕事の価値が下がり、どの仕事の価値が上がっていくのか」です。

決まった作業は、AIに渡っていく。 迷う仕事、決める仕事、人に伝える仕事は、人の側に残っていく。

そう考えると、今やるべきことは少し見えてきます。

AIを怖がりすぎない。 でも、無視もしない。 基本を学びながら、数字をどう読むか、どう伝えるか、どう動いてもらうかを少しずつ鍛えていく。

経理の仕事は、なくなるというより、たぶんこれから中身が変わっていきます。

そしてその変化は、作業だけをしてきた人には厳しいかもしれません。 でも、数字をもとに考え、人と向き合える人にとっては、むしろ出番が増える変化でもあるはずです。

今のうちに、次の力を足していく

今のうちに、次の力を足していく。基礎・AI活用・数字を読む・伝えて動かすの4ステップ

AIの時代に経理として残る力は、特別な才能ではありません。

数字を読むこと。 違和感に気づくこと。 自分の言葉で伝えること。 迷う場面から逃げずに、ひとつずつ決めていくこと。

そして、今ある仕事をこなしながら、次に必要になる力を少しずつ足していくこと。

経理の仕事は、なくなるというより、変わっていきます。

だからこそ、変わってから慌てるのではなく、変わり始めている今のうちに、自分の中に少しずつ余白をつくっておく。

その余白に、新しいスキルを入れていく。

たぶんそれが、AI時代の経理にとって、いちばん現実的で、いちばん長持ちする構えなのだと思います。