経理として、給料を上げるには|同じ経理でも年収に差がつくのは何か
講師:aqueil株式会社 代表 横林範明 約7分で読めます

開催の背景
経理は、当たり前を当たり前にする仕事です。締まって当然、合って当然。だから評価されにくく、年収の話もしにくい。「経理はそんなに上がる仕事じゃないから」という言葉を、そういうものとして受け止めてきた方は少なくありません。
ただ、同じ経理でも年収には差がついています。その差がどこから生まれているのかを、スキルと環境の2つから整理するために、この回を開きました。
登壇いただいたのは、aqueil株式会社の横林範明さんです。有価証券報告書のリーガルチェックから始まり、監査法人、IPOコンサルと立場を変えながら、20年以上にわたって上場準備の現場に関わってきた方で、これまでに2〜3千社を見てきたといいます。このたびCuelのキャリアアドバイザーに就任いただきました。今回は対談形式で、経理のキャリアの現実を聞いていく形をとっています。
この回でやったこと
前半は「経理の年収は何で決まるのか」です。横林さんの答えは、業種でした。
株式市場でよく使われる業種分類は33に分かれますが、この回では大きく2つに分けています。
| 成熟産業 | 成長産業 | |
|---|---|---|
| 業種の例 | 製造・小売・サービス・不動産・医療・建設 | 2000年以降に伸びた情報通信・ITサービス |
| 市場の大きさ | 大きい。100年以上の歴史がある | まだ大きくない |
| 伸び方 | 安定している | 爆発的に伸びている |
| 経理の任される範囲 | 縦割りになりやすい | 広くなりやすい |
日本の会社の99.7%は中小企業なので、参加者の8〜9割は成熟産業の側にいるだろう、という前提での話でした。成熟産業が悪いという話ではなく、そのなかでも上がる会社はどこなのか、あるいは成長産業に出ていくという選択肢もあるのか、を考える時間として組まれています。
後半は、その差が具体的にいくらの違いになって現れるのかという年収レンジと、参加者からの質問に答えていく時間です。予定していた1時間を30分超えて、質疑が続きました。
扱ったテーマ
- 経理の年収は何で決まるのか(成熟産業と成長産業)
- 会社の規模と、経理として任される範囲の関係
- 見るべきは入社時の提示年収ではなく、入社後の上昇率
- 上場を目指す会社はどこに集まっているのか
- 東証グロース市場に上場する会社が増えている意味
- 非上場を貫く会社で、経理にコストがかけられにくい構造
- 東京・神奈川での経理の年収レンジ(役割別)
- 「補助なしで決算を締められるか」という線引き
- スキルセット・マインドセット・人柄の3つと、変えられるもの
- バックオフィスの人が会社を選ぶときの、順番のねじれ
- スキルが5年変わっていないことへの危機感の持ち方
- 面接での自己アピール(自己成長意欲と他者貢献意欲)
つまずきやすかったところ
いちばん引っかかりやすいのは、会社の規模と成長の関係が直感と逆になるところです。 大きな会社ほど経理部の人数が多く、構造上どうしても縦割りになります。原価計算だけを担当する人、仕訳を切り続ける人。一方、人数の少ない会社では、決算はもちろん、場合によっては開示まで一人でやり、経理にとどまらず労務や総務も担うことになります。負荷として見れば負荷ですが、スキルの積み上がり方はまったく違う。だから比較すべきは内定時に提示される年収ではなく、入社したあとどれだけ上がっていくかという上昇率だ、という見方が示されました。
経理が高く評価される会社には、そうなる理由があります。 非上場を貫くと決めている会社には、株主に対する法定開示の義務がありません。義務がなければ、そこにコストをかける必要もない。外注でいい、派遣やアルバイトで固めればいいという心理が働きます。逆に上場企業・上場準備企業では、経理がしっかりしていないとそもそも上場できず、上場後も維持できません。だから優秀な人を入れよう、年収も高く提示しようという力学が働く。年収の差は、頑張りの量より先に、この構造の側にあるという整理でした。
上場を目指す会社がどこに集まっているかも、10年前とは変わっています。 この回で示された数字では、直近5年間のIPOのうち約74%が東証グロース市場でした。グロース市場は、いまの売上や利益が小さくても、この先の成長性を取引所が認めた会社が上がる場所。つまり成長の期待がない会社は、そもそも上場させてもらいにくくなってきている。上場を目指す会社を探すことと、成長産業を探すことが、実質的に重なってきているという話でした。
年収レンジは、東京・神奈川に限った相場として示されました。 役割ごとに、メンバー・リーダー・マネージャー(経理部長)・管理部長やCFO、という4段階です。数字そのものより印象に残ったのは、その動き方のほうでした。3年ほど前まで300万円台からだった下限が、いまは400万円からに上がっている。会計基準の議論を会計士と交わせるレベル、連結ができるレベルまで来ると、相場自体がここ数年で200万円ほど上がっている。一方で大阪だと100万〜200万円下がるので、この相場をそのまま持っていくことはできません。授業では、ほとんどの方が届く水準と、そこから先で分かれる線がどこにあるかまで確認しました。
「私にはスキルがない」という自己評価が、実態と合っていないこともあります。 経理は当たり前を当たり前にする仕事なので、できるようになったことが自分では見えにくい。逆に、5年10年と経ってスキルが変わっていない場合は、それを自分の努力不足として抱え込む必要はなく、環境の側に理由があると考えたほうがいい、という整理でした。ただし年数が増えるほど、同じスキルなら年齢の若い人が採用で有利になる。だから「去年より今のほうが積み上がっている」という実感を毎年持てているかどうかが、健全さの目安になります。
会社の選び方には、順番のねじれがありました。 経理をはじめバックオフィスの方が転職先を選ぶとき、多くは業務内容を1番に、一緒に働く人を2番に見ます。立地や収入がそのあとに来て、いちばん後回しになるのが事業内容です。横林さんはここを逆にしてほしいと言います。会社の業績が伸びる期待と、そこで働く人の年収が上がる期待は比例するから、事業内容こそ最初に見るべきだ、という理由でした。
質疑で出たこと
経理未経験でも経理職として転職できますか、という質問だとしても、私はイエスと答えます。ただし、これを踏んで、これを踏んで、という手順はありますよね。(横林さん)
質疑は予定を30分超えて続きました。出てきた質問をいくつか挙げます。
「ちゃんとした経理」と見られるまで何年かかるか。 答えは、年数ではない、でした。線を引くとすれば決算業務です。上司の助言や補助がなくても、月次決算・年次決算をひととおり回せる状態になれば一人前。ただし、任せてもらえない会社にいると何年いても届かないので、これも環境の話になります。なお、在籍1年未満での退職は転職市場でネガティブに見られるため、一定の年数は勤めたほうがプラスに働く、という補足がありました。
面接で自分をどうアピールすればいいか。 職務経歴書に書けることはスキルセットのアピールなので、面接ではマインドセットと人柄を出すところ。ここで挙げられたのが、自己成長意欲と他者貢献意欲をセットで語ることでした。「こうなりたい」だけでは満点にならず、「自分がこうなることで他部署はこうなり、会社全体はこうなる」までつなげられると加点される。経理の方は他者貢献意欲のほうが強い傾向があるので、自己成長意欲を足すと評価が変わりやすい、という話でした。
会計事務所から事業会社の経理へ移るのはどうか。 支援する側を2〜3年やると、外側からの支援では物足りなくなり、当事者として経理をやりたくなる方が多い。転職理由としてはむしろ正攻法で、そこからキャリアを伸ばしている人は多い、とのことでした。
経理は人材不足なのか。 今も昔も、ずっと不足しています。
転職して1週間で「もっと積極的に発言を」と言われた。 これはカルチャーの問題で、会社ごとのお作法がある。ただ、能動的に動いたほうが評価されるのは、どこでもほぼ間違いない、という答えでした。
次回のご案内
9月10日に、続きにあたるオープンイベントを開催します。今回はキャリアのプロから見た話でしたが、次回は当事者の話です。上場前のベンチャー企業に経理担当者として入社し、2023年の上場を経て、現在は上場企業の経理部長を務めている方をお招きします。上場準備は未経験のところからどう進んだのか、実体験を聞いていきます。
CuelLinkでは、経理の実務に必要な知識をLive授業と動画で学べます。無料登録から参加できる回もあります。